船越義珍の空手二十ケ条とその解説
仲宗根源和編「空手道大観」の松濤二十箇條(PDF形式) 第１１条 空手は湯の如し、絶えず熱度を与えざれば元の水に還る
はじめに
この条文から、常に鍛錬していなければ、自分の空手が初心の状態に還ってしまうので
はと、案じ悩んでしまいます。本当にそのようであれば、空手の底はすこぶる浅いものに
なってしまうからです。習い事は身に付けるためであり、身に付いた事柄は容易に消えな
いものです。
中国拳法の影響を絶えず受けながら、旧琉球国（沖縄県）で発祥した空手は、本土に紹
介されてから１世紀にも満たないけれど、国内は勿論、海外への普及進展の現状は、大い
に誇りとしていいだろうと思います。
修養を伴う種目領域は、自発的行為であり自律的行動に裏打ちされます。行動には守る
べき規範があって、日常的に心技体の養成訓練が行なわれ、努力怠りなく励み、よって人
間性の向上を目指す共通の概念があります。
空手に限らず、長年苦労して身に付けた技能や精神性は、長くその人の中に留まり、生
涯にわたり影響を及ぼすはずです。
この条文に関する解説を、①毎日の訓練が必要 ②身に付いたことは定着する ③真剣
に励む大切さ、と三つに分けて考察してみます。日ごろ修練の心得として、この三つは互
いに関連し合い、重層構造になっているのです。
１ 毎日の習練は不可欠か
(1) 空手の練習に参加し上達を目指すなら、日々心技体の充実を図らなければ効果は生
み出せません。第１条から述べてきた中に、同じ意味に受け取れる言葉があるので抜
き出しすると、第４条「先ず己を知れ、而して他を知れ」、第７条「禍は懈怠より生
ず」、第８条「道場のみの空手と思うな」、第９条「空手の修行は一生である」及び
第10条「凡ゆる物を空手化せよ」がそれです。後の第20条「常に思念工夫せよ」も同
義と考えてよいでしょう。
各条文の教えでも理解できるように、日々怠ることなく稽古に励まなければ大成は
難しく、怠れば後退を余儀なくされます。
古い諺に、「手習い（習字、その他の習い事）は坂に車を押すごとし、油断すれば
元に戻る」とあり、車を押す手を油断してうっかり休めれば、車は簡単に後退し転げ
落ちてしまいます。日々の練習も同じで、懈怠すれば進歩どころか後戻りしてしまう
ので、前進するためには必ず毎日の稽古精進は欠かせません。鍛錬に努めることは、
やる気力を生み出す根源だからです。
(2) ヤカンの水なら沸かすと沸騰し、火を止めれば徐々に冷めること必定です。しかし、
武道をヤカンの水と比喩するのは少し乱暴です。
この条文の熱とは、「行動力」「持続力」「実行力」であったり、「やる気」「集
中力」「忍耐力」「継続力」「向上心」を指します。加えて「空手好き」になり「情
熱」を失わないことだと思います。
効果的な練習法を選び、計画的継続的に練磨に励み、精神の充実を図り、絶えず湧
き出る熱情が次なるステップへと繋がります。情熱が冷めれば、空手と出会う前の状
態に還ってしまうからです。船越がこの条文で言いたかったのは、技術だけの問題で
なく、心の持ちようとしての情熱だったろうと推察します。
(3) 熱度を与えない、即ち練習を休んだらどうなるか考えてみましょう。
ある程度休んでしまえば、選手でも指導者であっても、再出発するには時間を要し
ます。一般的に、休止期間がある程度の年数を経過すれば、間違いなく技能は低下し
ます。かつての有名空手マンも、何年か過ぎてぎこちない動きに変わり、本人にとっ
て不本意な動作になってしまうのは仕方のないことです。
選手の場合ならもっと深刻で、今まで楽勝だった相手に敗れたり、試合で十分実力
が発揮できなくなります。また、加齢によっても技術力が低下することあるでしょう。
これらの現象は、個人的な差異があるのは当然としても、努力精進によって延伸し維
持できる部分は多くあるから、一概には決め付けられない問題です。
(4) 万全な状況（コンディション）を保ち、なお力を維持するためには、様々な要素と
要件が関わります。最適な条件下において、最善の努力を継続しなければならないか
らで、自分自身をよく知ったうえで行動すること肝要です。更に、自覚と実践の噛み
合いが、熱度であり熱源なのです。
(5) 山形市を活動拠点とした私は、就職後の転勤で１年間と６年半の２回、山形市を離
れました。特に６年半の時は実家に居を移し、山形大学空手道部の合宿練習のうち２
～３日程度、盟友や後輩と一緒するだけで、日ごろは、練習はおろか空手に関して見
聞きする機会さえありませんでした。「熱」は自分で生みだすより他ないと決意し、
熱源を絶やさないよう努めたつもりです。誰に師事することもできず、一人悶々とす
るばかりでしたが、この間不遇をかこつのでなく、自分で充電期間だと位置付け、活
用できたのは幸いでした。
(6) 絶やさず練磨できれば理想的だが、自分から止める人や、継続できない事情によっ
てやむなく休止する場合もあります。
習練を休止・中止するには何らか理由があると思われるので、ここに例示してみま
す。
①意欲が減退しやる気がなくなった ②やってみて好きになれない、イメージが合わ
ない ③指導者の考え方と相違する ④厳しくて嫌になった ⑤仲間との雰囲気が合
わない ⑥精神的、肉体的に苦痛 ⑦病気や傷害が発生した ⑧学校や仕事の都合で
時間が取れない ⑨居所が変わって練習に通えない ⑩自分は続けたいが周囲が反対
した ⑪他の人たちの態度や礼儀がよくないから嫌になった ⑫指導者から来なくと
もよいと言われた(破門など最悪のケース)
他にも事情はあるでしょうが、この中には指導者側に起因する項目もあります。指
導者は、心して団体（又は道場、部活動など）の維持運営に当たらなければなりませ
ん。ただし、運営にばかりに拘ったり、構成員等の希望にばかり拘泥したりして迎合
すれば、指導者の真意が疑われます。信念と毅然たる態度は、指導者の人間性から発
露されますから、十分留意する必要があります。
いづれにしても、折角身に付けた空手が元の水に還ったのでは、落胆の極みと言う
他ありません。一度立志しながら挫折しては、何一つ得なことないのです。
(7) 修習中は、ひたすら練習に励むことが肝心です。全てが自分の意のままにはならな
いでしょうが、我慢も修行のうちと心得るべきで、時間を掛けながら慣れる必要があ
るからです。
２ 空手は教養か
(1) 私は、10数年も前から『空手は教養の一つ』と言ってきました。教養とは、単なる
知識や学識と異なり、学問と文化的な理想を体得し、そこから派生する個人の精神能
力をもって統一的かつ創造的な発達を身に付け、時代に即応した文化的理念を具現で
きる能力を意味する、と私は解釈しています。更に、時代の変遷に伴う先駆的な行為
行動に適うとともに、生涯を通じて社会貢献に活かさなければならないのです。
平たく言えば、教養は、学び教わる中から得た知的能力や、身につけた技術・技芸
をもって、揺るぎない質直な人格を形成し、もって文化的な社会の構築に活用し、社
会の発展に寄与できる生涯を歩むということです。
面壁九年(菩提達磨、5世紀後半から6世紀前半の人。AC527年に中国に渡り禅宗を伝
えたインド僧の修行のこと)とか、只管打坐(道元禅師1200～53。中国留学の後、日本
曹洞宗を開く)で得た悟りは尊く得難いが、これを教養と言いません。独り「山籠り」
などの修行や苦行難行も習練の一形態ながら、これだけでは教養と言いません。武技
や技芸のパフォーマンス（達成結果と表現）も、実体は存在しても教養の要件を構成
しないのです。
教学一体の場において、真摯に飽くなき修養の中から獲得され、総人格の中から生
み出される思想や行動に投影され、初めて教養となります。
(2) 空手を教養として学ぶべきとした歴史は古く、発祥地琉球では空手を「君子の武」
と称し、これを理念の最高位に据え習練指導がなされました。後に、この理念を補完
したのが空手三無で、「空手に先手なし」、「空手に構えなし」、「空手に奥義なし」
がそれです。また、この二十箇条第１条の「空手は礼に始まり礼に終わるを忘るな」
も、その後盛んに喧伝されるようになりました。
修養と学習は同義であり、教養ならば総合的に社会に対応した普遍性を持つ。ここ
に順序不同ながら、空手から学ぶべき技法と知的分野を併せて表示してみます。
①空手技法の習得 ②空手発祥の歴史と時代背景 ③技法体系の理論的構成 ④国内
外普及の歴史と現状 ⑤身体操作の科学的理論 ⑥武道界における位置付け ⑦社会
文化としての空手 ⑧武道空手と護身術 ⑨空手の競技的性格と競技会 ⑩スポーツ
空手の意義 ⑪人格形成への道程 ⑪健康増進への活用 ⑫コミュ二ケーションとし
ての空手 ⑬礼節を学ぶ ⑭集中力、忍耐力の養成 ⑮他人の痛みが分かり仁徳を学
ぶ ⑯正義感、勇気の高揚 ⑰生涯にわたる生き甲斐づくり ⑱意欲、忍耐、集中力
の増進 ⑲謙虚や謙譲の心 ⑳道徳や人道を学ぶ などです。
(3) 私が空手の話を最初に聞いたのは小学校入学の頃で、父からだったとこのワンポイ
ントレッスン20年２月「富名腰義珍と空手二十箇條」プロローグ（１）の15項に書き
ました。子供心に古来の武道との相違点や神秘性に、憧憬の念を抱いた記憶がありま
す。高校３年生の時、在学の新庄北高校で拓殖大学空手部部員とＯＢによる演武を実
際に見て、演武者の端正さと、無駄のない理に適った挙動に、想像以上の素晴らしさ
を感じ感動しました。それまで柔道部でしたが、生涯続けるのはこの武道だとの閃き
に導かれ、同部ＯＢに請うて話を聞かせてもらい、その晩から真似事をはじめ55年余
を経過しました。拓殖大学への入学を誘われながら地元の大学に入学し、後に和道流
開祖の大塚博紀師に出会い、師事することできました。松濤館流を学ばなかった私が、
このように富名腰義珍師の「空手二十箇條」を今解説しているのは、奇縁というより
他ありません。
(4) 武道９団体の中で、空手は少林寺拳法に次いで新しい種目ながら、国際的普及度は
柔道に次ぐ第２位(柔道199か国、空手175か国)であるのは、古い新しいの問題でなく
空手の真価に対する評価と、併せて場所や年齢性別に関係なく、各自の体力や体型に
合わせ容易に取り組める利点も幸いしてのことだろうと思います。
空手には、人間の闘争本能や防衛本能を、内面から擽（くすぐ）る魅惑的な何かが
存在し、説明し得ない夢と憧れさえ感じます。それにロマンチックなイメージを醸し
出す何物かが内在すると考えるのは私だけでしょうか。
(5) 武士道という言葉は、藩政時代はあまり使用されなかったにも拘らず、明治維新後
から頻繁に使われるようになりました。武家社会の時代は、規範や自律行為の有様は
言わずもがな社会の均衡を保つ役割を果たし、武家には秩序を保持する責任と、伴う
教養が優先され定着しており、誰もが仕組みを容認していました。
ところが、明治維新によって一新された世上において、国民に対し改めて武士の教
養である武士道を意識させ、説かなければならない必要性と時代背景があったのです。
武士道精神は、私たち空手にも随所に受け継がれ、精神性のみならず、技法にも、
競技の場においても、顕著な影響が見られます。
(6) 空手をベースとした教養は、護身術を修めることでも、豪腕や身体健剛を目的とす
るのでもありません。実践者（愛好者）が人間性を陶冶し、暴挙を慎み、恥を知り、
品性を高めるべく、生涯を通じて日々の修養は欠かせないと教えます。
熱度を加えなければ元の水に還る程度の空手なら、教養としての価値を失う。身体
操作に限っても、簡単に低下や消滅はしないのです。ましてや、生涯心身の中に存続
し続けるであろうことから、私は、空手は教養であると断言するのです。
学校、並びに社会教育などで学んだ教養に、更にもう一つ、空手から学ぶ教養を積
み上げるのが望ましい姿であって、ここに「幸いなるかな空手道」と私は唱えたいの
です。
(7) 私は自分の道場である崇武館に、道場訓の他に「練習心得」を掲げています。その
中の一文に『上級者は、自ら進んで下級者を補助すること』があります。指導者なら
指導は当然ですが、同じ仲間同士でも気付いた点をアドバイスする程度なら誰にでも
可能なはずです。
指導でもアドバイスでも結構ですから、勇気をもって教えてみることです。教える
ことは、学びを増進する効果があって、自らの教養を高めるからです。
(8) 筆者以外に空手は教養であると提言した方がいます。それは崇城大学の山内洋一教
授（全空連教士・公認七段）で、日本武道学会機関誌「 武道学研究 」第39巻第３号
（平成19年３月）に掲載された「現代における武道の概念を探る－空手道の立場から」
がそれで、その記載内容の一部を転載して紹介します。
『(前文略)新世紀の展望として教養としての空手道を目指すべく、次の提言をしたい。
①日本型スポーツの普及：「一撃必殺」という武術としての空手を目指すのではなく、
「礼にはじまり礼に終わる」の精神をもった日本型スポーツを普及すること ②トレ
ーニングにスポーツ科学を採り入れ、より合理的な動きを研究し体位の向上を目指す
こと ③体の健康教育としての空手術を身に付ける、即ち１．老若男女、いつでも・
誰でも・何処でも手軽に出来る空手道 ２．健康志向の男性、美容志向の女性、基礎
作り志向の学童、生甲斐探しの高齢者、リハビリとしての身体障害者等々 ④歩く座
るの姿勢教育と懸け声も含めた呼吸教育 ⑤心の健康教育としての空手道を稽古する
ことにより、危機管理能力を高め「空手に先手なし」を実践する、即ち１．礼法：敵
を作らない為にも相手を尊重しよう ２．予測：前もって推測し敏速に行動しよう
（君子危うきに近寄らず） ３．見切り：善悪の判断が出来たら惜しみなく捨てさろ
う ４．残心：終わったと思ってもまだ終わっていません（油断大敵）。(中略)競技
者として空手道にたずさわる期間と、対象となる人たちの数は、非常に限られていま
す。そこで、武道としての空手道に「日本独自の身体運動文化」としての存在が、今
日問われているのではないでしょうか。そのような中、21世紀は「教養としての空手」
を目指さなければと考えています。その主なものとして、「礼にはじまり礼に終わる」
の精神を持った日本型スポーツの普及があげられましょう。（後略）』
３ ひたすら鍛錬に励む武道家たち
(1) 歴史に残る先人武道家には、人並み外れた修行鍛錬の様子が伝えられています。
言い換えるなら、常人とは異なるとてつもない熱度を生むエネルギーをもって、自己
の武技を磨き、湯が冷めるどころか四六時中沸騰させていたのです。
ここに二人の偉人の例を挙げ、空手道を志す読者諸氏の情熱が冷め元の水に還るこ
とのないよう、注意を喚起しておきます。
ア 宮本武蔵の場合(1584～1643．「五輪書」序の巻から趣旨)
私（武蔵）は、若年から兵法・武芸の道を志し、13歳の時初めて真剣勝負をした。
次いで16歳とそれぞれ剛の者に打ち勝ち、21歳で京都に上り、並み居る兵法者と勝負
したが勝利を得ないことなかった。その後、諸国を巡り諸流派の武芸者と出会い、60
数度まで勝負したが、一度も勝利を失わなかった。しかし、30歳を過ぎてその足跡を
振り返ってみれば、自分が勝ったのは決して兵法を極め得たからではなく、備わった
才能があって、道理や天の理に即していたためなのか、それとも、相手の兵法が不十
分であったからではと思うようになった。いずれにしても、自分が未熟であることを
痛感した。その後は、なお深い道理を得たいものと、朝夕鍛錬を続けた結果、おのず
と兵法の道に叶うようになったのは50歳のころであった。
イ 山岡鉄舟の場合（1836～88．大森曹玄著「山岡鉄舟」、㈱春秋社刊から趣旨）
幕末から明治を生きた中で、成人して188㎝105㎏という並外れた体格の持ち主の鉄
舟は、９歳で真影流を学び、その後、北辰一刀流を学んで狂気のように真正直に捨て
身の稽古をし、人から「鬼鉄」と呼ばれ恐れられたという。鉄舟は『刻苦精思する事
二十年、剣道明眼の人（剣理の真実をわきまえた人）を四方に求めるが、そのような
人に遭うことできない』と嘆いていた。ところが28歳の時、若州（福井県）小浜藩士
の浅井又七郎という人がすこぶる達人だとの噂を聴いた鉄舟は、早速訪ねて試合を申
し込み立ち会ってみると、『果たして近ごろ流行している剣術と大いに趣を異にする
ものがある。外柔にして内剛であり、精神を呼吸と一体化させ、勝機を未撃（攻撃を
懸ける前）に察知している。真に明眼の達人と言える。以後試合するたびに、自分の
剣は足元にも及ばないと悟った』と自記している。
このように、浅利の技量と心境は鉄舟を遥に越えていた。鉄舟は浅利に子弟の礼を
取り毎日稽古に通うが、力量の差はいかんともし難く、鉄舟の剛毅をもってしても追
い詰められ戸外まで追い出される日々が続いた。日記に『修行怠らないつもりだが、
浅利先生に勝つ方法は見当たらない。眼を閉じて呼吸を整え工夫を凝らし、浅利先生
と対峙することに思いを馳せれば、忽ち彼が自分の剣の前に立ちふさがり、あたかも
山に対して立ち向かっている感じになる』と。
鉄舟は、解決の端緒を見いだせないまま、禅の師である天竜寺の滴水禅師に浅利先
生の幻影のことを訴えた。原文の記載を省略するが、滴水から碧眼録の中の「五位兼
中至」の頌を授けられ、その後３年余り考案に対し苦心惨憺の末、ようやくにして
「眼前に敵なく、剣下に我なく、乾坤を独歩するような衝天の意気」を感じ、更に重
ねること五日をもって悟りに至った。
早速浅利に立会いを求めたところ、浅利は戦わずして鉄舟の剣が極致に達したと察
し、極意を伝授し印可を授けた。浅利と最初の出遭いから17年が経過していたのであ
る。
(2) 剣の道を究めた二人を取り上げたが、この二人に限らず各分野における達人たちの
辛苦の記録は枚挙にいとまがない。体力・気力が常人と違う素質に恵まれ、秀でた天
才達人だからこそ、偉業を達成し、後世に名を残した業績は大きい。
倦まず弛まず鍛錬を可能とするのも、素質の一つとだと言う人もいる。しかし、大
部分の人たちは、目標に対峙し「不借身命」精神をもって挑戦していないのでなかろ
うか、素質を眠らせたまま放置してはいないのだろうかと、つくづく思う時あるので
す。
天才、偉人、達人と言われた人は、素質に恵まれたから常人では不可能な苦難を乗
り越え、研鑽を重ねたのだろうか。
私は違うと思います。誰しも、やってみる前から才能や可能性の存在や、運命など
も分からないのです。これは、学問もスポーツや武道や全ての技芸など、何事におい
ても共通の道理であります。
志を立て身を焦がして修行し練磨した人がいて、努めて目標に邁進する気概があっ
てこそ、偉大な人を生み出す最も大事な要因と心得てください。最初から名人・達人
を約束され、お膳立てされている人はいないので す。
「玉磨かざれば光なし」だけではいけません。「玉の中に玉を磨く」の古諺のよう
に、刻苦努力する気概を持ってこそ、才能を開花させ得る唯一の手段なのだと心得て
ください。
次号につづく
